レーダーに感あり!
はるか昔、「スターウルフ」だったか何だったかで、大元帥と呼ばれ日本SF界の重鎮となった野田昌宏さんが、あとがきでこんな趣旨のことを書いています。(以下、読みたかったら下をどうぞ)
映画「眼下の敵」の字幕で、駆逐艦が敵潜水艦を探知する場面、英語で「Get a brip!」というセリフが出たそうです。本の翻訳なら、「艦影補足しました!」 とかなんとか書けばいいけれど、戦闘場面の緊迫した映画の場面で、そんな悠長な字幕を入れるわけにはいかない。
どうするのかな、と野田氏が見ている前で、翻訳者がここに 「釣れた!」 というスーパーインポーズを入れたのだそうです。
うーん、やるな、と膝を叩いた野田氏、それにしても日本語はこういう短いインパクトのある言葉が使えない国語だなぁ、と歎いたそうな。
そのときちょっと違和感があったのですが、その後ミリヲタとしての修行(笑)を積んだあげく、なぜ野田氏の感慨に違和感があったのかわかったのです。
1942年6月5日、ミッドウエー沖の海上で、航空母艦「赤城」の見張り員が頭上に敵機を見ます。この時彼は、
「敵急降下爆撃機、本艦上空より急降下、投弾体勢に入ります!」
などと言ったはずがない。なんと言ったか。
「敵機、直上、急降下(てっき、ちょくじょう、きゅうこうか)!」
これを聞いた艦長も、 「回避のため取り舵いっぱい!」 などと言ったはずがない。
瞬時に 「アカアカ!」 と(おそらく)叫び、二層下の操舵室では練達の操舵長が、艦を左に向けるよう全力で舵輪を回したはず。この間、一秒もないでしょうね。
それでも、舵輪を回してから艦がまわるのに数十秒、下手をすると一分以上かかる大型艦です。回避行動が間に合わなかったのはどうにもならない。
野田さん、戦争している最中ですよ、いくら日本語だって、チンタラまわりくどいセリフを言うはずがないじゃないですか。(; ´Д`)
ちなみに、某お馬鹿仮想戦記では、「赤城」の艦長は「取り舵いっぱーい!」と号令をかけ、自ら「どっせーい!」と掛け声をかけて舵輪を回したのだそうな。
ばっかじゃなかろか。
ススムとかいう某戦闘班長が、艦の防空の指揮を執りつつ艦載機で迎撃に出たと同じくらい馬鹿だ。
さて、「宇宙戦艦ヤマト2199」。 (そこかよw)
鐵太郎は実は、メカとしてのデザイン、物語としての科学考証、ストーリーの流れ、若者たちの生の感情の発露、旧日本海軍への歪んだ偏愛、そして軍隊の構造への不理解など、さまざまな点で、オリジナルの「ヤマト」とそれ以降のこのシリーズについて、よい感情は持っていなかったのです。
おかげで疑似ミリタリー的、及びSF的なアニメーション作品に対して高い評価ができず、それが曲がりなりにも回復するには「ガンダム」と「ボトムズ」、そして「パトレイバー」まで待たなくてはならなかった、石頭でした。
エンタープライズ号のスポック副長を見た後で、艦長がいないと右往左往する「戦艦」の幹部なんぞ、TVになにか投げたくなってもしかたないじゃないですか。「無重力だから軽い」と言って、宇宙空間で、数十トンはありそうな浮遊物体を片手で押す場面を罵倒したってあたりまえじゃないですか。(何を言い訳している?w)
でありますので、「2199」についてもあまり期待していなかったのです、実は。
すみません、S様、T様、その他の方々。
ところが、ね。地上波で見始めたら、けっこうやるじゃないですか。
「ゆきかぜ」という名前を登場させただけで、男のロマンと称して訳わからない文学的感涙を絞らせるような「旧ヤマト」の再現だったら鼻もひっかけなかったはずですが、科学的考証とか、軍組織へのより高いレベルの理解とか、用語とか、なかなか上手く作ってありますね、これ。
ほう、出渕裕さん? 「パトレイバー」で押井守さんと喧嘩した人? なるほど、それなら期待してもいいかも。(苦笑)
でね、「レーダーに感あり!」という言葉も、好印象の一つなんですよ。
ミリタリーに限らず、緊急事態に対処するための組織です。必要最小限の言葉で、適確に正確に報告しなければなりません。こういうリアル感がないと、見ていても面白くないんですよね。
この先のストーリーについて、「旧ヤマト」の不満がどう解消されるのか、まだ不安がないとは言えない。これは事実。
でもまぁ、興味はつながった、かな。
ただし、「ヤマト2199」でも不満がないわけじゃない。
科学的原理みたいな事は理解できなくても、現場の技術者、機関員たちは、メカとしての兵器の、使用法、構造を理解し、メンテナンスをこなさなければならないのです。
ぜんぜん聞いたことがないメカを最前線でいきなり与えられて、それを「武人の蛮用」に耐えられるように使いこなせ、と言う方に無理がある。
波動エンジンとかの超兵器について、最低限の使い方、動作原理、調整方法などの下位レベルの説明が、少なくとも機関部士官にはあったはずなんです。
彼らはそれを聞いて、徹夜でそれをいじり回して少しでもそれを自分のものとし、翌朝しれっとした顔で、訳わからない機械に青ざめる機関兵に説明するはずです。それが、エンジニアの意地ってもの。
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