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2013年10月20日 (日)

「風立ちぬ」追記

 映画「風立ちぬ」のシーンについて、思い出したところが二箇所ばかり。

Wind

 一つは、「シベリア」のところ。

Siberia 「シベリア」とは、カステラに羊羹を挟んだお菓子だそうです。鐵太郎はよくわかりません。右写真は、老舗パン屋「コテイベーカリー」(横浜市)が、今も生産を続けている「シベリア」。
 多分、食べたことはあるはずだし、見た記憶もあるのですが、その名前で呼ばれていたとは思えない。まぁ、鐵太郎がもの知らずであったという事でしょうけどね。

 この「シベリア」を、残業帰りの主人公・二郎が下宿で食べようとしてか、菓子屋で買ったシーンがあります。ふと横を見ると、幼い兄と妹。トトロのシーンを思い出させる、親の帰りを待つ情景なのですが、トトロよりシビアな世界。二郎はそのきょうだいが気になり、手にしたシベリアを与えようとしますが、少年はそれを拒否し、幼い妹の手を引いて去ります。
 下宿に戻った二郎は、同僚である本庄(リアルでは数年先輩の技術者)にそのことを話すと、本庄はこういうのです。
 「そりゃ、二郎、偽善だよ」
 そして、いま俺たちが図面を引いている飛行機の開発費用だけで、日本中の子供たちにシベリアを腹一杯食べさせられるんだぜ、という。
 戦争技術の開発に携わることへの、心に秘めた忸怩たる思いを語らせようとしたシーンです。

 ここで何が頭に引っかかったのかというと、「偽善」という言葉。
 なんというか、文系の学生っぽい理屈だな、と思ったもの。
 一応機械屋の端くれであるオイラだったら、貧しい家の幼いきょうだいが、それでも強いプライドを持っていることに思いをめぐらしたであろう、と思った。
 まぁ、二郎さんも本郷さんも、「超」を重ねなければならないほどの、当時としては日本が世界に誇るエリート技術者であったわけだし、その思いをどうこう言える立場じゃないけどね。それでも、自分の夢とそれに至るビジョンを持ち、自分の技能と実績に自信を持ち、未来を切り開く自信と技術屋としての広い知識と教養を持っていた彼らです。いくら機械工学科出身という出自だけは鐵太郎と同じでも、考えるレベルは違ったのかもしれない。
 ただ、オイラなら「偽善」とは言わないよな、と思っただけ。
 

 もうひとつのシーンが、二郎と本庄がドイツの町を歩くところ。
 ここで、ドイツ語の歌を唄うのです。この歌。
 中盤で歌われる、「Das gibt's nur einmal」(ただ一度だけ)もいいけど、こっち。

 この歌が、いますっかりボケて、自分がどこにいるのかもわからない寝たきりになった親父が、よく歌っていたのです。鐵太郎が小学生の頃。まだ、SPレコードのプレイヤーが動いていた頃。
 正確なドイツ語の発音だったのかどうか、そんな事はわからない。でも、声量だけは豊かだった(でも、リズム感はイマイチだった)親父が、奇妙な外国のこの歌を、家のどこでも聞こえるほどの声を上げて飽きもせず歌っていた、あのころ。
 「冬の旅」なのだと思う。今でもよくわからない。
 この歌を聴いたとき、暗い映画館の中で落涙してしまった。うん。
 (声は出さなかったが)

 youtubeで調べてみたけど、上手く見つからなかったのが残念。

 ああ、「Das gibt's nur einmal」の方も、親父は時々歌っていました。演劇、オペラ、オペレッタなど、TVでさえ見ないくせに、歌うことは好きだった親父でした。

 終戦時、玉音放送のとき、それを知らず大学の研究室でB-29だかなにかの破片を解体する作業を行っていた親父は、あと数ヶ月戦争が続いていたなら陸軍に行くはずだったとか。機械工学の学生と言う事で二年近く徴兵猶予があったけれど、終戦で救われたらしい。
 だからなのか、上の息子が機械工学科の学生になると聞いて、普段子供の教育に何もいわなかったくせに、ちょっとだけ満足そうにうなずいていた親父でした。

 戦争をくぐり抜けた世代に、ちょっと敬意を。
 あなた方がめざした未来を、ぼくらは作れただろうか。

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コメント

JerryFish様。どもどもども(ry

 見落としていました。
 この曲は、亡父のコレクションだったSPレコードの中にあったはずなのですが、たび重なる引越や震災などで、もうなくなっています。
 あの曲を聴いてみたいとは思うのですが、今はまだ聴かない方が良いかなとも思っています。(; ´Д`)

投稿: 鐵太郎@管理人 | 2014年8月19日 (火) 20時49分

お探しの曲でしたら、AmazonでCD、MP3で扱われてるようですよ(^^)。
http://www.amazon.co.jp/s/ref=nb_sb_noss?__mk_ja_JP=%83J%83%5E%83J%83i&url=search-alias%3Ddvd&field-keywords=Das+gibt%27s+nur+einmal

投稿: JerryFish | 2014年8月15日 (金) 23時32分

★にっけ様 どもです。
>ところで、あれは幼い姉弟ではなかったでしょうか。
 うーん、小さな妹の手を強引に引っ張ったお兄ちゃん、という記憶があるけど、どうかな。ちがっているかも。

 ところで「シベリア」についてですが、母に聞いてみたら、たしかにそんなお菓子があったけど、母の記憶によるとそんな名前じゃなかったんじゃないの、とのこと。
 また、これは駄菓子のたぐいであって、ちゃんとした菓子屋にそんなものは置いていなかったそうです。
 ふーむ。

 あの動乱の時代、日本人はどのように考えるべきだったのか、これは今の視点で見ると難しい。戦争のために邁進することは、現代では悪であり、罪であり、唾棄すべき行為です。少なくとも日本では。おもてだっては。
 でも当時はどうだったのか。当時の国民、軍人、政治家、技術者たちはどうすべきだったのか。社会に矛盾はあったろうけれど、それを打破するためにも国家が強くなることを望むのが、当然の行為とされていた時代でした。

 喫煙問題だけでなく、実はいろいろと難しい矛盾をはらんでいるのですが、大半の観覧者は甘やかな悲恋にばかり目が行っているようです。そのあたりも、宮崎さんの戦略かも。w

投稿: 鐵太郎@管理人 | 2013年10月20日 (日) 16時41分

シベリア、食べたことないのに、何故か見た覚えがありますね。
最近、あちこちのパン屋さんで類似品を見かけますvv

私はあそこは本庄さんのまともさにほっとしましたね。
つい、二郎さんのような世間一般から激しくずれた理系オタクばかりで飛行機作ってるような先入観を持ちがちなので。
ちゃんと経済観念と、そしておそらくは倫理観も備えて自分の仕事の矛盾を見つめていた人もいたんだと思い出させてくれます。

ところで、あれは幼い姉弟ではなかったでしょうか。

投稿: にっけ@くいしんぼ | 2013年10月20日 (日) 15時48分

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